昨日発表されましたが、次の4年間に環境、健康、観光を成長産業として育成するというのです。
環境はグリーン産業のこと、健康は医療や介護のことで、観光はアジアからの観光客を増やすという内容です。
アメリカやイギリスでもこういう分野が成長分野で、先進国ではどこもそこへの投資が増える時代になってます。そういう点では並みの平凡な内容で、あっと驚き、国民が夢を見るというものではありません。
この案に対し、さっそく新聞の論調などでは批判的なものが見られますが、こんな点が難点です。
・各省の案をホッキスでとじただけで戦略というほどのものではない、フリーター半減、食料自給率を上げるなども並んでるところを見ると、ホッキス説は当ってるように見えます。
・新産業を育てる投資の財源はどうするんだろう。オバマ大統領はグリーン・エネルギーに13兆円を投資しますが、これがありません。鳩山首相は「計画を作っても政治的な実行力がなければ絵に描いたモチだ」と述べましたが、今のところモチです。
投資財源をどこから持ってくるのか、公共投資や製造業に使っていたカネや行政のムダをこの財源にするとなっていれば納得ですが、そうなってません。2010年度予算をつくるシーズンなのでそこに成長分野投資を計上すればよかったのにと思います。
・健康の過半は社会保障費を財源にしてますが、その膨らんだ分をどうまかなうのか、消費税を上げるのか、この辺りにことを言わないと成長分野にすることができません。
今年の春、経済学者ポール・グルーグマンは「アメリカの成長産業は医療と福祉だ」と言ってます。日本と同じことを言ってるんですが、オバマは医療で国民皆保険制度をつくり、4000万人ちかい無保険者をなくします。金持ちはまた負担増になると反対ですが、上院、下院では法案は通りました。あとは両院協議だけなので通過するでしょう。そうなると医療需要は成長します。
また医療の情報化もあります。医療費の支払いチェック、医療費の請求と支払い、病院間の医療情報のやり取りなど、情報化、ネットワーク化すると医療費用の2~3割が削減されます。医療産業では情報化による生産性の上昇が期待されてるんです。
アメリカは医療・福祉産業を成長産業にしようとしてるのは、一方で増税による需要の成長と、他方、情報化による生産性の上昇がセットになっており、これなら成長産業にすることができます。
日本にはこれがありません。来夏の参議院選挙まで具体的な戦略をつくるようですが、うまくできるのかどうか。
民主党はこの成長戦略を「第三の道」と呼んでます。ブレアの第三の道の真似です。第一が高度成長期の成長のことで製造業の投資と公共投資が成長を牽引しました。第二が小泉構造改革で経済の生産性上昇による成長ですが、同時に所得格差拡大で社会不安が生じてうまくいってません。
これに対する三番の道というぐらいの意味です。ブレアの第三の道は、財政赤字のとき増税するか公共サービスをカットするかどちらかで、サッチャー首相はサービスのカットを選択し社会が混乱しました。
これを受け、97年にブレア首相は増税でもない、サービスのカットでもないと全く新しい道を選びましたが、これがブレア流の第三の道で、社会起業です。公共サービスで公共部門と民間の双方が経営するのです。
ただ、経営といっても利益至上主義や株主第一主義ではありません。市場経済の経営学ではありません。新しい経営学で経営します。
環境、健康ともに社会性の強い分野で、社会性半分、利益半分といったところでしょうか。こうした感性については、日本でまだ充分認識されてません。民主党がこの成長産業ビジョンを実現しようと思うなら、このたりのことも改まらないといけません。
言うは易く、行なうは難いことばかりです。