株式会社マイファーム の話しであるが、サイトはここ 。京都市中京区にあり、京大農学部を卒業した20才代半ばの 西辻一真さんが07年9月に設立した。本人はソーシャル・ベンチャーを名乗っている。


08年には「 Eticビジネス・コンテスト入賞」「京都ビジネスコンテスト優勝」「 GMOインターネット・ビジネスブラン・グランプリ 特別賞(社会貢献賞)」を授賞し、目下売り出し中、テレビにも時々登場するようになった。


06年ごろ、京都でソーシャル・コミュニティ・ネットワークサイトを運営してる人が来て、アメリカのKivaのようなソーシャル・ビジネスに投資するサイトを作ろうと思うがと相談があった。


そのときはこうしたらとアドバイスしたが、彼はこの話とは別に、京都の南にある耕作放棄農地を対象にして、貸し農園をやる事業の話があり、支援しようと思っていると話していた。


自治体がやっているありふれた市民農園とどう違うか疑問だったが、それがマイファームだった。マイファームのサイトがいかにもプロらしい雰囲気がするのはにはこんなわけがあった。設立間もないが、農業で斬新な事業モデルを開発中で、マスコミの注目をひいた。こういう事業を社会は待っている感じである。


事業モデルは、耕作放棄地をリメイクし(5年もたっていると農地には適さなくなるので、耕しなおし農地化する)、市民農園として貸し出すのが事業である。市がやってる(全国どこでもやっており、それだけでは珍しくない)貸し農園よりも高い賃料だが、それでも顧客がいるのは「畑の管理人」(プロの農民)が指導や管理(休日でないウィークデイの管理)をしているからで、素人に貸しっぱなしにしないで丁寧にめんどうを見るのがここの特色である。


耕作放棄農地は都市近郊に多く、借り手も都市にいるが、それを結びつけた。この二つはこれから増える。そこへ農業指導という付加価値をつけ、素人に農園をやらせたのがミソである。


マイファームは3つの行動指針を掲げており、「安全」(農産物の安全)「自然」(自然との調和)「利他」(社会全体の利益を優先)、これに従い、まず耕作放棄農地を稼動させる事業モデルを始めた。


耕作放棄地問題のほか、農業には限界集落問題、農家経営圧迫問題を、土壌汚染問題、スローライフ・安心安全な作物などたくさんの問題があり、これを解決する事業を開発する。


まさに社会起業のモデル開発である。


貸し農園は2年目で50件を見込んでいたが、半分の実績(6ha)にとどまった。そうなったのは地元の農業委員会で賃借する許可を取らなくてはいけないが、農村に入ってくる人が共同体ルールを守るかどうかを気にして、賃貸をなかなか許可しない。だから事業拡大のスピードは遅い。


農業委員会はそこの農民で構成するが、荒れ果てた耕地を活用したい気持ちがあっても、共同体のルールが乱される心配から、なかなか許可しないのは自然なことで、農村社会は保守的で時代適応していないと簡単に非難はできない。


今年のノーベル経済学賞はインディアナ大学のエリノー・オストロム教授だった。私は教授の論文を読んだことがないが(アマゾンで教授の翻訳本を検索すると、ありませんと出てくる)、解説によると、共同体には「共有地の悲劇」(共有地の牧草地で羊を飼うと、個人は出来るだけおおくの羊を放牧するので、食べる草がなくなり放牧できなくなること、市場の失敗に近いことが起こる)が起こり、資源枯渇を防ぐために政府が関与しなくてはいけない常識があったが、エリノー・オストロム教授は、利得者はコモンの独自ルールをつくりこれでうまくやっている例がたくさなあることを発見した。


市場でもない(自由競争)、政府(規制)でもないのどちらでもないモノが真理だという例で、ここは社会起業の精神に似ている。古く時代遅れと見えた農村社会のルールにも合理性があると発見した人を誉めるのは、いかにも09年の時代精神だと感心した。


こんなわけで事業モデルが広がるには時間がかかるが、明るい話もある。テレビのドキュメント番組で賃貸に反対していた農業委員会の委員長は、西辻一真さんを自宅に呼び話を聞き、反対してるばかりでなく、前に進んでみようと、自分の果樹園の管理を西辻さんに委託する話しで終わっていた。


これはレンタルファームというわけにはいかないので、西辻さんはまた新事業モデルを開発しなくてはいけないが、こういうのが楽しい仕事である。


農業では、今は事業モデルが開発しやすい状態(ITやネットよりもずっと容易だろう)にあるので、こんなことがマスコミでも話題になる。